著名人との関係性 / Diary570
2.8.2018

 

数年前、酒の席で友人に問われたことが御座いました。憶えば一度も考えたことがなかった、当然、心の引き出しに仕舞った記憶もなく、引き出しから取り出した事もなく、それは不意をつかれた瞬間でありました。とはいえ販売員を生業とする者であれば、あるいはファッションを愛する者であればひとりやふたり、心に留めているのが常であろうと思うわけでありまして、美味しいハンバーガーを作ることを業とするその友人に問われた際は、久方ぶりに冷や汗を滲ませたものです。捏造するわけにも参りませんので、いないものはいない、とビールジョッキをどんっと置いて答えるしかないのですが、販売員を業とする者の回答としてはいささか寂しいもの、これは酒の肴にもならん、そのように後ろめたさと回答を常備していなかった少しばかりの恥ずかしさをもってこのように切り込みました。「心して聞け、闇夜に烏雪に鷺である。僕は雪の日のカラスになりたいのではない。」何かの引用を心の引き出しから引っ張りだしたわけですが、解釈しすぎた挙げ句、大迂回することとなったこの回答。当然「うむ、なるほど。販売員らしいな」とは成らず。

 

 

「おまえ、洋服を着るとき指標となる好きな人物はいるのか」

 

 

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いないのです。全く以てお恥ずかしい。映画や音楽、カルチャーのフィルターを通られてきた方も多いと思いますが、そのフィルターが分厚くしっかりとしたものであるならば、おそらくひとりやふたり、お心に留められている特定人物、著名人、偉人などいらっしゃるのではと憶います。ファッションをお好きな方であれば。

 

姿形そうなりたいと想う「切望」とは少し違うかもしれませんが(そう想っている方もいらっしゃるのだろうけれど)おおかた、漠然とした特定人物像と漠然としたイメージ媒体として心の引き出しに仕舞われているのだろうと思案を巡らせるところ。質の良い筋肉をもった男のスーツ姿、であればカジノロワイヤル出演のダニエルクレイヴ、のような男性像、のように。広告映画色が一段と強まっている同シリーズものの中で彼が演じるダブルオーではカジノロワイヤルが好みでして、特に終盤、股間に太いロープを何度も打ち付けられる拷問シーンは彼の類のない裸の屈強さが収められておりますが、その数日後にエヴァグリーンを抱くのだから大したものです。
 
しかしながら友人に質問された際に「よくぞ聞いてくれた。僕が心に留めている特定人物とはまさに、股間をも見事に鍛えて上げたダニエルクレイヴである」とはならず、目指しているわけでもなく、スーツを着る際に思い浮かべるわけでも御座いません。そのレヴェルにおいて無意識に、漠然とした特定人物像と漠然としたイメージ媒体として心の引き出しに仕舞っているわけでありますが、強いて申し上げるならば、強いて、ただひとりを申し上げるならば、わたくしがヴィンテージアイウェアを選定するきっかけとなった人物で御座いまして、けれどもファッションとしてアイコンとして心中に留まり続けているわけでは御座いませんし、しっかりとしたセルフレームとジャストフィットのスウェットシャツの具像は確かに今でも心の引き出しに仕舞われている画、しかしながら言葉そのまま「きっかけ」にすぎず、それはピーナッツ原作者チャールズ・M・シュルツ故氏であり、同氏が普段日頃より愛用品として、常用品として、道具のひとつとして使用していた其のアイウェアで御座います。当時米国では珍しくも英国的アプローチが表出した正統的個体でありまして、米国某社が同時期にエントリーさせた同型の別個体も素晴らしいフォルムを放っていたりと、この辺りはまた別の機会と致しますが、いずれにしましても、同氏がわたくしのファッションバイブルとなったわけでは御座いません、ただ、わたくしが常用品を選定するうえで、闇夜のカラスを進んで模索するわたくしを優しく微笑みながらエスコートしてくれた著名人であることは確かで御座います。誠に、僭越ながら。

 

そもそもとして、気の知れた友人宅の敷居を跨ぐ前に手みやげを差し出す、あの紳士性をもった犬を贔屓にしているもので。

 

 

 

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さて、先日の福留のDiaryですが、そのようにわたくしも懐かしんでおりました。わたくしが当店に立たせて頂く前、弊社別セクションにてキーボードをタイプしていた頃(かれこれ4,5年前でしょうか)、当時SURR専任であった福留が、時はたまにわたくしの居るセクションに出現し、キーボードをたたくことで一生懸命なわたくしに向かって不規則かつランダムな質問を唐突にも不可避のタイミングで繰り出すという運動が御座いました。さらにその質問に答えたとしても全く返りがなく、そうか、僕はこのように試されているのだ、と引き続きキーボードをたたく日々。「いま逢えるとしたら、誰に逢いたいか」、“ジムキャリー” と即時即答していた当時が懐かしく。そしておそらく、美味しいハンバーガーを作ることを業とするその友人に対する回答の正解は「ジムキャリー」と「股間を見事に鍛えた英国諜報部員」と「律儀な犬」だったのだろうと、彼が求めたのは真意ではなく酒の肴だったろうと。数年前の話ですが、次回があれば今度は同様の質問を浴びせてやるつもり。ちょっとやそっとの回答ではわたしの酒は進まぬぞ。

 

 

 

 

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