余談と理想の話 / Diary483
8.1.2018

 
 
 
 
余談と理想の話
 
 
 
 
私事にて恐縮ですが、感覚更新を繰り返した先に辿り着いた理想的なコットンシャツ、即ち、コットンというお素材は、幾重にも洗いと乾燥を繰り返されたアンティークコットン(少なくとも50年以上経過している綿をそう呼ばせて頂きます)で御座いまして、おそらくそれは水という酸素と水素により成り立つ液体と吹き抜ける天然乾燥、何より蓄積された目眩がするほどの膨大で莫大な “ 時間 ” これら3つの要素が条件として満たされることが必要であるように思えます。そうでなくてはならない、と思うに至ったきっかけは、先シーズンの2月頃に店内でひっそりお披露目となった1930年代前後のフレンチコットンシャツに触れてから。そうでなくてはならない、とはあくまで其のシャツとの出逢いによる後付けで御座いますが、そんなことはどちらでも構わないと、確実なる感覚更新を実現させた驚異的な対面で御座いました。(因みに其のシャツは現在1枚のみひっそりと置かせて頂いております。)
 
そうでなくてはならない、というロジックやら条件やらは、お洋服を愛してやまない皆様又は、この分かりにくいDiaryをいつもご一読下さっている皆様ならば、きっとマニアックでディープな内容をお心に持たれているだろうとお察し致します。そもそも俺はシルクシャツしか着ない、とか。1980年代米国の粗粗しい綿織りじゃないと肌が喜ばない、とか。アイラブフランネル、とか。私の場合は漠然とした理想条件をあくまで漠然と保有しておりましたので、そうでなくてはならない、を事前に明確に言葉で表出することが叶わず、「触れてはじめて」の感覚を何より大切にしてまいりました。きっと頼らざるを得なかったという表現が大方正しいのでしょう。導き出された例えばの回答が、“ 水 ” “ 乾燥 ” “ 時間 ” でしたが、その条件や触れた実際的な感覚は、今後何十年もの間私の中に漠然とそして確実に形成されていくある種の「体制」へと化けるものと、まるで決まりきった事柄のように。
 
“ こうでなくてはならない ” と。
 
 
 
 
しかしながら“ 水 ” “ 乾燥 ” “ 時間 ” という抽象的でありますが確かな条件を獲得した私は、いとも簡単にその方程式を崩される結末を迎えたのがその数ヶ月後。積み上げた法則やら摂理やらが、ワンクリックでオーバーライトセーブされる程の威力をもった其の1着。おそらくは手が触れるまで、3つの確かな条件を方程式として確保し続けたであろうと微かに思いながら、隅々まで検分する必要がまるでないように素直でイノセンスに溢れた1着との対面は、純粋にもタイミングと、そして私が知っていたはずの世界の狭さが露呈した瞬間で御座いました。
 
 
ハリはありません。艶もない。
しかしながら、驚くほど物柔らかで軽やか、マイルド、そして、柔軟。決して大袈裟に申し上げてるお話では御座いません。まるで天然のカシミア毛をフランネル地に織り上げたよう。それにもかかわらず、立派にスプレッドされたカラーはドレスシャツであることを全的にディスプレイされ、高度に、専門的に、驚くほど正確に仕立て上げられたこの1枚に、習慣的な強さを現実的に期待してしまうポテンシャルを、たった一度の対面と、触れるという行いのみで、肌から克明に感じ取れる種類のシャツで御座いました。 “ 水 ” “ 乾燥 ” “ 時間 ” という抽象的でありますが確かな条件は三位一体とまで満たされず、おそらく1980年代にたまごから割れて生まれた瞬間からずっとこの資質であるでしょうし、“ 水 ” と “ 乾燥 ” に関しては「高級素材と完璧な仕上がり、洗うたびにしなやかになる感触が特徴で」と何とも分かりやすくオフィシャルペイジにて綴られていたのできっとそうなのでしょう。いずれにしましても、今後何十年もの間私の中に漠然とそして確実に形成されていくある種の「体制」へと化けるはずの “ そうでなくてはならない ” は、粉々に吹き飛ばされたものではないにしろ、既存のプログラムは書き換えられ、「体制」へと構えるにはまだまだ先の話で、世界は狭く、知っている以上に広く、そしてここまで約1500文字程を綴らせたその1枚、少なくとも確実なる感覚更新を実現させた驚異的な対面で御座いました。
 
“ こうでなくてはならない ” と。
 
 
 
OLYMPUS DIGITAL CAMERA
 
80s Thomas Pink natural cotton dress shirt
 
 
 

 

 

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