鹿爪らしい / Diary408
12.6.2017

 
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「 鹿爪らしい 」
 
“ 鹿 ” という生き物と関連する言葉をわたくしの引き出しから取り出すと、「鹿爪らしい」が浮かんでまいります。まじめくさって堅苦しい様、道理に適い、もっともらしい様を指す充て語。なぜ、この言葉がわたくしのメモリーカードに保存されていたかと申しますと、かれこれ10年程前でしょうか、歳の離れた人生の先輩と碁を打っている最中、言葉そのままよく言われておりました。「んん、しかつめらしいのぉ」今思えば、定石ばかりで堅く面白くない、という内容でしょう。当時は10代の最中、悩みが絶えない年頃でして、頭脳を盤上の策で埋め尽くせる碁は、心を空っぽにできるのでよく打ったものです。碁は将棋と違い、王を守り抜く必要も忠誠を誓う必要もなく、盤上にて攻めと守り、純粋な陣地争奪戦。そこには当然、策があるわけですが、その策には心情や性格なるものがそのまま反映されるので面白いものです。人を知るには碁を打て、とはそのこと。
 
余談が過ぎました。
 
 
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60年代フランスを中心にヨーロッパで確立された「アートジュエリー」というひとつのムード、ジュエリーを愉しむという風潮が顕著に表れていた良き時代。当時のプロダクトは、一部を除き、固形としての魅力が内側より溢れている印象、また固形物としてのポテンシャルが極めて高く、素材の真を捉えたデザインが見受けられます。ソリッドかつ完全無欠な外形。その完璧な円形美を保ちながら925に刻まれた6文字のアルファベット。本品もまた1960年代と素晴らしき時代に造形された逸品。
 
 
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ただ、ただ、驚愕したのは、先端部に位置する乳白色のそれが “ 鹿の骨を削りだしたもの ” そして、円形から逸れるように外側に伸びたその形状が、“ 鹿の爪を表現したもの ” であるという事。素材の真を捉えたミニマリズムの究極的な円形は、堅苦しくも道理に適う納得の領域で御座いましたが、その乳白色を理解した途端、“ 確かにそれは鹿の爪 ” で御座いますが、その外形のみで「 鹿爪らしい 」と安易に表現できたものでは御座いません。
 
それが、1960年代のHERMESと知っても尚。
 
 
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60s Hermes silver bangle “ deer born ”
 
 
 
 
 
“ 鹿 ” という言葉を用いたことわざに、「 向かう鹿には矢が立たず 」が御座います。逃げないでこちらを向いている鹿に矢を射るようなむごいことはできないという、素直な、また柔順な相手を攻撃する気にはなれない例え。仮に素直で柔順な相手ではなくとも矢は放たない、“ 俺は誰も攻撃しない ” 表しを手首に宿して頂けましたら。言葉に発さず意味を保たせるのもまた、紳士的では。
 
 
 
 
 
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SURR by LAILA 小林

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因に「 秋の鹿は笛に寄る 」は、雌鹿の鳴き声に似た笛に雄鹿がおびき寄せられて、人間に捕らえられることから、恋のために身を滅ぼすことのたとえ。これは教訓としてわたくしのメモリーカードに保存致します。
 
 

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