前回も記させて頂きました通り魅力や求心力において “ 新しい品である / 過去の品である ” は決して論点には成りませんが、職人技術が関われば関わるほど過去の品に惹かれる傾向が私にはございまして、また、一つの品に惹かれた際に 70 年代と判明したら選ばない / 30年代と判明したら選ぶといった “ 時代を遡れば遡るほど良い ” という判断基準はないものの、仮に70年代であることと30年代であることを天秤にかけるとしたら一部の区分においては後者であることの方が喜ばしく感じまして、それはそれらが時代を遡れば遡るほど ( 主に工業に関わる ) 技術面が素朴になり、おのずと完成までに時間がかかるため職人技術・熱量・愛情がより多く注がれる傾向にある と考えている点と、70 年代の品と言われた方が納得できるような出で立ちが 30 年代の品であったなんて という幸せな矛盾が生じるからなのですが、この度の新作アイウェアにおいて、見事にそう感じさせてくれた二点がございました。
弊店にとっても大切な存在であり情けないことにここ数年新作の御提案が叶っていない Oliver Peoples は、近年一層に躍進を果たしている印象を抱いております。同社は 1987 年に設立されたメーカーで、とある倉庫に保管されていた何十年も前の眼鏡部品・機材・名簿との出逢いがきっかけであったがため、初期の作品群にはそれら 1900 年代初頭から 1930 年代にかけての “ アンティーク・アイウェア特有 ” の要素が存分に反映されておりまして、その独自性と高い品質が同社を一挙に同区分における特別な立ち位置まで昇華させ現在に繋がっており、同社が打ち立てた “ アンティークの世界観を現代の感覚で真っ向から取り入れる ” 手法を私は新しい現代性として捉えているのですが、前回の旅で出逢えた一つは、さも Oliver Peoples と見紛うような構築でありながら対話してみるとその先に潜むアンティークと呼べる年代ならではの特異性と強さと、存在価値において重要な苦みに気付かせてくれる一品であり、ここまで Oliver Peoples の要素を直線的に感じさせてくれる, イコール同社の教科書である “ 本物 ” のアンティークに出逢った経験と、彼らが打ち立てた新しい現代性でありながらそれらと一線を画すという幸せな矛盾に出逢った経験はありませんでした。
金属装飾 × 樹脂素材という、今や同社における代名詞的な要素にて構築された同社にとっての教科書そのものと言って差し支えない本品は 1930年代にフランスで産まれました。特有の素材表情は申しあげるまでもなく隅から隅に至るまで存分にございますが、最たる脅威なは各所の曲線美でして、同社代表作である雅や MP シリーズと共通する現代的であり知的で不変的なボストンフレームに秘められたアンティーク年代ならではの職人技術, 角の滑らかさや強さや曲線のなだらかさや急激さといった繊細極まりない緩急と極めて少々広めなブリッジとの調和、による均整のとれた “ 美しい ” と共に強烈な “ 苦み ” が感じられる、どうしようもないほどの中毒性と存在としての独善性がこの一点には在るのです。
1930s French eyewear, pale pink and gold.
続く。
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