その造形の色気 / Diary536
14.5.2018

 

 

いつぞやご紹介を、と申し上げてから気がつけば3ヶ月ばかり経過しておりました。例年通り穏やかな気候と陽光に満ちた5月は、集中力を切らすと寝てしまいそうな危ない店内でございます。錯綜する情報やら世の中の目まぐるしいスピード感やら、あるいはどうだってよいニュースの一例から脱し、ニュートラルスイッチを限りなくONにするには絶好のタイミングでありまして、そのようにして効きが良くない冷房の風で涼みながら前方4面の窓から覗くバージニアクリーパーの緑緑を視界に捉えますと「緑に映える1本の赤」という状況に出くわすわけであります。とはいっても前々からその状況というのは代わり映えもなく其の状況なわけでありますが、中立的思考を前提に夕方17:00の時刻を知らせる街の音楽が鳴り出す頃合い、そのタイミング、5月の陽光、穏やかな気候、控えめな夕日、緑に映える1本の赤、ニュートラルスイッチはオン、美味いパンケーキレシピと同じようにそれらの要素が欠陥なく混在し成立する瞬間というのは、夢と現実を隔てる線引きがなくなり、あるいは何かの取り違いでパラレルワールドに存在してしまったような不可思議な感覚に思えてくるもの。要するに、寝てしまいそうな危ない店内なわけでありまして、集中力を決して切らさぬ日々という事でして、何よりくだらない独り言でございます。失敬。

 

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いつぞやご紹介を、と申し上げてから気がつけば3ヶ月ばかり経過しておりました。今シーズン設けたテーマを象徴する素晴らしき実例で御座います。1900年初頭に創業したイタリアはミラノをメインフィールドとした同社の起源を辿りますと生地メーカーという内容が顔を出します。後にそのフィールドは世界へ拡散。おそらくスーツをビスポーク(もしくはイージーオーダー)されたご経験のある方はファブリックメーカーという其の顔には馴染みのある内容であろうと思います。70年代直前にはプレタポルテにも参入し、パターンオーダーにも心血を注ぐ。現在ではコレクションネームとしても周知に至っております。とまぁ歴史の陳列などわたくしが偉そうに綴る内容ではありませんが、少なくとも本作に関して申し上げねばならないのが、“ 素晴らしい生地 ” という引き続き同社渾身の採択と、テーラーを土俵としながらプレタの世界で魅せた“ スポーツジャケット ” であるという実相。

 
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厳格な基準値を通過したように採択された美しい生地は、天然リネンのような軽やかさとテクスチャーが保存されながらも全体を占有するのはコットンである事実。時間を吸収したようなミリタリーカーキに効果的に配色されたグレイ。這わせる新緑、映える赤。ハンドウォームに並列して設置されたチェストポケット。品の良い前立て。アーム設計が成す緻密な空間支配、身体に沿わせた際に発動する固有の規律や立体美。その造形の色気こそ、パターンへの追求と考証が際限なく行われている同社のプライドの顕れであり、テーラーという世界の外においてその品位が保たれた素晴らしき実例のように思います。

 

 

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80s Ermenegildo Zegna cotton sport jacket

 

 

 

 

 

 

 

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